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死産でも葬儀は行うがまだまだ認知度が低く社会的なサポートも不足しがち

葬儀というと、天寿を全うした高齢者のイメージが強いが、そうではない。働き盛りの中高年がいれば、子供もいる。お骨が残らないほど小さな赤ん坊でさえ、亡くなる。お腹の中で育った命が、外に出る前に絶えてしまうことも多々あるのである。それが死産だ。今回はA子さんというケースを例に、死産後どのような流れが待っているか、考えていきたい。

死産でも葬儀は行うがまだまだ認知度が低く社会的なサポートも不足しがち

死産と流産の違い

死産より流産の方がピンとくる人が多いかもしれない。まず死産と流産の違いはなにか。

日本産科婦人科学会では妊娠22週目以降を死産。それ以前を流産と定義している。これは22週目以降の胎児であれば未熟児として医療で生存できる可能性があるからである。少しでも「生かしたい」という気持ちの見える言葉の使い分けである。

一方、厚生労働省では妊娠12週目以降の死児の出産を死産としている。死児とは厚生労働省において定義された、出産後、心臓拍動・随意筋の運動・呼吸のいずれも認められない状態のことだ。12週以降では死産届が必要になるので、あくまでも手続き上の観点から死産と呼ぶのである。以降は死児における話をするので、「死産」と統一させてもらう。

A子さんのケース

A子さんは二度の流産の後、心拍の確認できる命をお腹に宿すことができた。しかし妊娠五カ月。安定期に入ったころ、病院でエコー検査を受けたところ、赤ちゃんの心臓は、動いていなかった。出血もなければ腹痛もない。しかし突然、心臓は止まった。原因は不明だった。
厚生労働省人口動態統計によると、2016年出生数976978件に対し、死産の数は2934件。50人に1人は赤ちゃんが亡くなっているという。

A子さんは大学病院で出産のための入院手続きを行う。お腹の中にいる赤ちゃんが亡くなっていても、出産という形で赤ちゃんを外に出さなくてはならない。二日後入院が決まり、A子さんは旦那さんと赤ちゃんの名前を考え、散歩をした。出産という別れまでの最後のひと時だった。

分娩室にて陣痛促進剤で陣痛を起こし、他の分娩室から産声が聞こえる中、死児を出産する。すぐに赤ちゃんに会いたいと希望したが、他の出産で忙しいことを理由に断られた。産後の辛さの中、病院の対応の悪さを目の当たりにした瞬間だった。そして個室を希望したものの、入院する部屋は妊婦の大勢いる大部屋しか空いていなかった。ここでもA子さんは辛い思いをする。

翌日死産証明書を提出するため市役所に電話するも、死亡証明書と勘違いされ、苦労をした。役所でも死産についての認知度が低いことがよくわかる。火葬許可書をもらわないと退院はできない。ご主人はその日、手続きのため東奔西走した。火葬場も自分で予約をしなければならなかった。電話口で骨壺がないと言われ、自分で仏具店で購入した。

二日経ち、ようやく赤ちゃんと対面できた。カートに小さな白い箱が置いてあり、蓋の上にお子さんの名前が書いてある紙が貼ってあった。赤ちゃんはガーゼをお布団のようにして横になっていた。
箱から出してもらって抱っこをした。用意していた手編みのベビードレスもベビーシューズも大きすぎた。5日ほどして退院。それまで毎日赤ちゃんに会い、抱っこをした。

退院時もらった赤ちゃんを亡くした家族への冊子は一年経ってようやく読めるようになったという。
火葬を翌日に控え、A子さんは絵本を読み聞かせ、話しかけ、オルゴールを掛けた。火葬場は朝一番だった。朝一の火は弱いので小さな赤ちゃんでもお骨の残る可能性があるのだ。お骨は柔らかくて小さくて、箸でつかむのが大変だった。

同じお墓に入りたいので一時預かりをしてくれるお寺を探した。しかしその市に住んだことがないと預かってもらえないので自宅供養を選ぶ。お骨は今も部屋に置いてある。毎日お線香を立て、お水を替え、お花も枯らしたことはないし、一週間に一度はお菓子をあげている。産後ひどいうつに悩まされたが、一年経つ今では次の妊娠を望み、頑張っている。

死産後の届け出

A子さんも苦労した死産届。これは妊娠12週目以降に死産した場合は、死産届を分娩から7日以内に提出する必要がある。提出期間を過ぎると理由書の提出が必要となり、罰金が課せられることもある。

赤ちゃんが誕生後に死亡した場合には出生届の提出も必要となる。この出生の判断は医師が行う。出生届を提出するために戸籍に記載される。逆に言えばお腹の中で亡くなっていた場合は戸籍にすら残らない。それだけでも辛いのに、お母さんはA子さんのように死児を出産しなければならないのだ。
ここからの流れは一般的な葬儀と同じであるが、安置場所はA子さんと同様に自宅を選択するひとが多い。

死産へのサポート

一方で赤ちゃんの葬儀を執り行うようになった葬儀会社もある。赤ちゃん専用の30㎝の小さな棺。9~12㎝の可愛い骨壺。A子さんが苦労した死産届や火葬許可証の申請のサポートも行う。
このようなサポートが一般的になり、広く知られていれば、A子さんの様な苦労をしなくて済むだろう。

A子さんのケースで良かったこともある。病院が退院まで毎日会わせてくれたこと。これはA子さんの心のケアに繋がる。また、火葬場が朝一の時間を勧めてくれたことも重要だ。これは専門的知識がないと、赤ちゃんのお骨も残らなという可能性が高かった。この他にも病院側から提示されなくても、お願いすれば叶えてくれることもある。赤ちゃんの爪や髪、へその緒をもらうこと、母子手帳に体重などを記入してもらうこと、手形・足形を取ることなどだ。思い出として残してあげることも供養のひとつである。

火葬炉までのわずかの時間でも棺を抱っこしていたい。最期の瞬間まで離れたくない。可愛い子供との別れをそのように思うのは当然であるのに、まだまだ社会は冷たい。悲しい出産直後、手続きなどに忙殺される。それはどの葬儀でも同じではあるのだが、もっと社会的なサポートが必要ではないか。

少子化問題にばかり焦点があたって、死産や流産というリスクを孕む出産の大変さがおろそかにされてはいないか。産前、不安な状態で「もしも」の話など聞きたくはない。だからこそ社会が、死産や流産について「誰もが知っている当たり前のこと」にしなければならないのだ。

ライター

アンドウ

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