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先立った母親が幽霊となってあらわれて子育てをする「子育て幽霊」

『泣いた赤鬼』、『りゅうの目のなみだ』などで知られる童話作家・浜田広介(ひろすけ、1893〜1973)の作品に、『むく鳥のゆめ』(1921年)というものがある。

先立った母親が幽霊となってあらわれて子育てをする「子育て幽霊」

『むく鳥のゆめ』とはどんな話?

とうさん鳥と暮らす、むく鳥の子どもがあるとき、かあさん鳥の不在に気づく。とうさん鳥は、かあさん鳥はとおいところに出かけて行ったと言っていたが、むく鳥はいつ帰ってくるのか気になってしまう。とうさんに何度も尋ねたが、ものぐさそうに「ああ、もうちっと、まっておいで」と答えるばかりである。とうさんに尋ねるのを止めて、むく鳥はかあさんをただひたすら待っていた。ある夜中、かさこそ、かさこそ、と音がする。単に強い風に枯葉が吹かれている音に過ぎなかったのかもしれないが、むく鳥にはかあさんが帰ってきたように思われた。また、かさこそ、かさこそ、と音がする。音を辿っていくと、1枚の枯葉が今にも風に吹き飛ばされそうになっている。むく鳥は巣の中の毛を1本抜いて、枝にしっかりとくくりつけてやった。その夜にむく鳥が見た夢がある。どこからか、体の白い1羽の鳥が飛んできて、むく鳥父子が眠るほら穴の中まで入ってきた。むく鳥はおどろいて、「ああ、おかあさん」と呼びかける。しかしその白い鳥は何も言わずに、優しい2つの目を向けて、むく鳥を眺めた。むく鳥は白い鳥に取りすがろうとしたが、いつしかその姿はどこかに消えてしまった。翌朝、外に出てみると、周囲に雪が薄く降っていた。むく鳥は、あの白い鳥はひょっとしたらこの雪だったのかもしれないと思い、葉に積もっていた雪を羽で払い落とした…という短い話である。

この話は子どものための童話だが、日本には、子を思う母親が死後もなお、幽霊となって現れるばかりではなく、子育てをするという話が数多く伝わっている。

日本国内に数多く残る「子育て幽霊」の話

日本国内に数多く残る「子育て幽霊」の話

民俗学者の関敬吾(1978)によると、妊婦が死んで葬られ、子どものために甘いものや食物を買って育てる、そしてそれが後々幽霊だと周囲の者に知られ、墓を掘り起こしたところ、子どもが生きていたことがわかるという「子育て幽霊」の話は、北は岩手県から、南は鹿児島県の喜界ヶ島(きかいがしま)まで分布し、40例ほどあると言われている。

例えば、福岡県の鍛冶町(かじまち。現・福岡市天神)にある曹洞宗の寺院・安国寺(あんこくじ)に伝わる、「飴買い幽霊」という話がある。江戸初期、1679(延宝7)年のこと。飴屋に毎夜、3文持って飴を買いにくる女がいた。怪しんだ飴屋の主人が女の後をつけると、安国寺の墓の中に消える。墓の中から赤ん坊の泣き声がする。主人と寺の僧侶とで墓を掘ると、女の赤ん坊がいた…。

現在、安国寺には、飴を買いに来た女と、発見後、程なく亡くなったという赤ん坊のものとされる小さな墓とが2基残っている。大きな墓には「岩松院殿禅室妙悦大姉」と、小さな墓には「童女」と刻まれている。

子育て幽霊の起源は?

こうした話の祖型となったのが、兵庫県小野市に伝わる、南北朝時代の禅僧・通幻寂霊(つうげんじゃくれい、1322〜1391)の出生譚だと考えられている。

通幻の父母には子どもがなかった。清水(きよみず)観音に祈って、通幻を身ごもったが、母は出産前に亡くなってしまった。その後、付近で見慣れない女が深夜に雨を買いに来るようになった。飴屋の主人が怪しんで、女の後をつけたところ、先日葬ったばかりの新しい墓の中に、女が消えてしまった。主人が呆然としていると、どこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。翌朝、再び墓を訪れた主人が、他の人とともに墓を暴くと、葬ってからしばらくたつというのに、死人の顔色はまるで生きた人のようだった。死人の膝の上には、丸々と太った赤子が眠っていた。主人たちは母の菩提を弔うために、子どもを育て、僧侶になした。この子は後に通幻という名僧になったという。

死者が幽霊となって出現するという構成の理由

日本文学・思想の研究者、安永寿延(2001)は幽霊出現の意味と構造について、以下のように述べている。生者は生きることばかりではなく、死ぬこともできる存在である。しかし一生を「飾る」ことができなかった生者は、「死」で「生」を飾ることができない。それが、「死んでも死に切れない」ということだ。宗教は葬送儀礼を、人が「第2の生」を生きるための通過儀礼とみなし、「第1の生」の不遇と「第2の生」の豊かさとが交換可能であると説いてきた。死者が自分自身の死の意味を解読し、了解可能として受け入れたとき、死者は初めて死の世界を獲得し、そこに安息を見出すのだ。だが、死者が自らの死に対して拒否反応を示し続けるとき、死者は生きることも死ぬこともできず、生と死の境界をいつまでも彷徨い続けることになる。そして幽霊そのものは過去の存在であるにもかかわらず、常に現在に這い上がろうとしているのだ。しかも幽霊にとっての「過去」とは、生者が持ちうる、美しく、憧憬をもって振り返るものではなく、黒く醜く、嫌悪感に満ちたものなのだ。こうしたことから、幽霊は、「現在」や「未来」はもちろんのこと、「過去」からさえも、疎外された存在なのだ。

従って、こうした意味や構造を持つ幽霊の出現とは、生者によって死せる者が忘れられてしまったことに対しての、死者の側からの懸命の抗議である。それと同時に、過去を美しいヴェールで覆い隠してしまいがちな生者への反撃でもあった。さらには、生者による、死者への無意識、無自覚な形で踏みつけたり、傷つけたりするなどの、何らかの「加害者性」によって幽霊が生き延び得ていることを生者に悟らせ、生者の持つ「罪」を自覚させるものでもあるという。

子育て幽霊の場合は?

「子育て幽霊」の出現は、安永の定義には完全に当てはまらない。生者に露見しない限り、現在進行形で継続するつもりであると思しき、母親としてのアイデンティティ、そして毎日「子どもを育てる」という、ある意味「未来志向」の行動は、現在に立ち現れては来るものの、死者が自身のために希求すべきとされる「成仏」の未来を考慮することは一切なく、そして非業のままで終わってしまった過去に固執し続け、生者にその恨みを強く訴えようとする多くの幽霊のありようとは大きく異なるからだ。

ただ言えることがあるとすれば、「子育て幽霊」は、自分の「過去」に執着し続け、生者が隠しておきたい、自分にはないものとしたい煩悩や苦悩、憎しみや悪意などのダークサイドを濃厚に帯びた、それゆえに、生者と極めてよく似た幽霊というよりも、幼い子どもと非常に近しい存在でもある菩薩や地蔵のような神仏に近い存在に昇華している幽霊なのだ。それゆえ、決してなよなよと弱々しい「幽霊」ではない。生者に怪しまれることがなかったならば、子どもを女手ひとつで一人前に育て上げることができそうな「肝っ玉かあさん」的なたくましささえ、有しているように思われる。

子育て幽霊の話が今でも数多く残る理由は?

童話の『むく鳥のゆめ』はもちろんのこと、「子育て幽霊」話が成立し、全国各地に広がり、地域固有の「情報」が付け加えられたり、逆に省かれたりしつつ根づき、今日に至るまで「残っている」ことは、ひとえに、母が子を思う気持ちの一途さ、美しさ、純粋さを物語るものであると同時に、母とは、たとえ死んでも、幽霊になってでも、その母性によって、子どもを育てようとする「はず」、「べき」であるという社会から期待される「母親像」が濃厚に反映していることも事実だ。そのことは、慈愛にあふれ、自らの命を投げ出すことも惜しまないという「母親像」を全うできなかった母親が、昔も多く存在していたことを暗示している。そのため、人間誰しもが持つ、弱さや至らなさを戒めるためにつくられ、ある種の模範とされ、語り伝えられてきた「幽霊」だったという考え方もできるだろう。

また、「幽霊」の出現に説得力を持たせる「墓」の存在は、赤ん坊を残したまま、路傍で行き倒れた若い母親のものか、瀕死の状態だったものの、周囲からは死んだものとして墓に埋葬されてしまっていた母親が実は生きていて、虫の息の中、赤ん坊を産み落とし、その後すぐに亡くなってしまっていたことを、誰かに発見されたものだった可能性がある。

母親を早くに亡くした子供の気持は?

「子育て幽霊」話には、肝心の、幽霊に育てられていた「子ども」がほとんど登場しない。福岡の場合は、子どもは見つけられた後、すぐに亡くなったという。鹿児島県大島郡喜界ヶ島に伝わるものは、発見された男の子は、後に月持惣之進という偉い侍になった。また、長崎市でも、男の子は優秀な僧侶となり、伊良林(いらばやし)の浄土真宗・光源寺(こうげんじ)の6代目の住職となったというもので、いずれも、祖型とされる兵庫県小野市の通幻同様の「出世譚」で終わっている。そこで思い出して欲しいのは、幽霊ばかりではなく、母親の幽霊にほんのわずかの期間でも、育てられた「子ども」の存在だ。母親を失った「子ども」は何を思い、育っていったのだろうか。『むく鳥のゆめ』に登場するむく鳥のように、自分のそばにいない母を恋しがりながら日々を過ごし、実際に母親の幽霊なのか、あるいは欲しくて欲しくてたまらない母親を、夢や日々移り変わる気象現象の変化の中などに見出し、寂しい心を慰めていたのかもしれない。

最後に…

日本人の少子高齢化問題が大きな懸念とされている現在、「子育て」にまつわる様々な悩みは、「子育て幽霊」がリアルなものとして人々の心に浸透していた時代とは大きく異なるだろう。しかし、例えば出産後の母親が抱えるとされる、「産後うつ」などが近年、明るみになってきた。子どもを産んだばかりの母親は全て幸せに満ちあふれ、子どもの将来をあれこれ夢見るなど、今まで考えたこともなかった母親としての自覚が芽生え、それにふさわしい振る舞いや物の考え方になってくる…などと、多くの人々は思い込んでいる。しかし「みんな」がそうではない。抑うつ症状に陥り、やる気が出ない、イライラする。人によっては衝動的に自殺したくなるほど、精神的に追い詰められてしまうという。こうしたことは出産という「大仕事」を終えた際に起こった一時的な混乱で、すぐに収まるものとも言えず、場合によっては精神の不安定感を抱え続け、「毒親(どくおや)」となってしまう母親も少なくないのだ。


そうした現代の母親たちにとって、「子育て幽霊」の「美談」が、更なるプレッシャーとなってはならない。とはいえ「子ども」は「母親」を選べない。どんな「母親」であっても、その「子ども」にとって、心から信頼し、安心できる「母親」は、その人しかいないのだ。それゆえ、現在、子育ての苦しみの中にある母親が一瞬でも「子育て幽霊」の伝説を思い出し、「自分」へのとらわれを手放し、一瞬でも「子ども」に目が向けば、母親自身の癒しとなるし、死んでなお子どもを育てようとした幽霊への供養になるはずである。

参考文献

■浜田広介 『浜田広介童話集』1953年 新潮社
■関敬吾 『日本昔話大成 3:本格昔話 2』1978年 角川書店
■増田秀光「子育て幽霊」志村有弘・諏訪春雄(編)『日本説話伝説大事典』2000年(361頁)勉誠出版
■小松和彦(編)『怪異の民俗学〈6〉幽霊』2001年(36-45頁)河出書房新社
■「くらしの情報 福岡市中央区:飴買い幽霊」『福岡市ホームページ』2016年10月1日
■「まさか自分が…多くの親に潜む『毒親』の兆候 –従順な優等生がストレスで豹変することも」『東洋経済オンライン』2017年5月23日
■「『産後うつ』は『ホルモンのせい』ではない【『産後うつ』チェックリスト付】」『文春オンライン』2017年9月23日

ライター

鳥飼かおる(掲載日:2017/12/12)

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