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古代日本に見る人の死を悼んだ「挽歌」の変遷と葬歌との違い

天皇陛下の生前退位に伴って発表された新元号「令和」は、万葉集「梅花歌三十二首」の序文を典拠としている。その影響で、今「万葉集」がにわかに注目を集めていると言う。日本最古の和歌集である万葉集。その内容は、宴など主に晴れやかな行事を歌った「雑歌」、家族や友人がお互いの事を伝え合った「相聞歌」、そして、人の死を悼んだ「挽歌」の三つに分けられる。今回は、万葉集の中で「挽歌詩人」と呼ばれるほど多くの挽歌を詠んだ柿本人麻呂と挽歌の変遷についてご紹介したい。

古代日本に見る人の死を悼んだ「挽歌」の変遷と葬歌との違い

古代の葬儀の中の葬歌

記録に残っている日本最古の葬儀は「古事記」に登場するアメノワカヒコ(天若日子)の葬儀だ。天から遣わされたアメノワカヒコが、自ら放った矢に射抜かれて死んだ時、嘆き悲しんだ妻のシタテルヒメ(下照比売)は、喪屋を作り鳥たちに葬儀の準備をさせて八日八晩歌い踊った。これは、埋葬までしばらくの間、遺体を安置して様々な行事を行う「殯(もがり)」の事であり、魂の蘇りを信じていた古代では、この殯宮(ひんきゅう)行事の間、遺体の側で泣き、歌い、踊りながら死者の復活を待った。

その後、死に際して歌われた葬歌としては、ヤマトタケル(倭健命)の死後に后たちが夫の蘇りを願って歌った歌、モノノベノカゲヒメ(物部影媛)が夫を殺された時の歌、オウミノケナ(近江毛野)の遺体が近江に帰った時の妻の歌などが記録に残されているが、これらは殯宮行事の一環として儀式的に歌われたものであり、死者を悼んで歌う挽歌とは言い難いと考えられている。

葬歌から挽歌へ

大化2年(646年)、大化の改新の一環としての薄葬令が発布され、巨大古墳時代が幕を閉じると、人々の死生観も変化を見せ始める。薄葬令に含まれていた王以下の者の殯の禁止は、魂の蘇りへの信仰が薄れつつある事を意味していた。その頃、百済系渡来人の氏族と考えられる野中河原満(のなかのかわらまろ)が、妻の死を嘆く中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)に捧げた歌が、最初の挽歌であると認識されている。

これまでの葬歌は、直接的にその人の死を歌う事はなく、あくまで儀式的な表現に留まっていたが、野中氏の歌は、その人が死んだ時、その人の事を思って歌われている。その感情豊かな表現に、中大兄皇子も大いに感動し讃えたという。挽歌とは、もともとは中国の葬送の際、棺を挽く者が歌った歌であり、渡来人系の野中氏から誕生した事は必然と言えるだろう。

挽歌を確立した柿本人麻呂

柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)は、690年から707年頃、持統天皇と文武天皇に仕えた宮廷歌人であり、それ以外の生涯に関する詳しい資料は残されていない。また、彼の作品も万葉集のみにしか見る事は出来ないが、人麻呂によって挽歌は大きく進化し、一つのジャンルを確立したと言えるだろう。その代表的な作品が、日並皇子(ひなみのみこ)、高市皇子(たけちのみこ)、明日香皇女(あすかのおうじょ)に捧げた殯宮挽歌の三作品である。

これらの作品の特徴は、いづれもトップクラスの皇族の挽歌である事、個人的な悲しみを歌うのではなくスケールが壮大である事、そして明らかに聴衆を意識して作られている事だ。要するに、人麻呂が朝廷から公式に依頼されて作った歌なのである。人麻呂はまず故人の過去の業績を讃えた後、残された者たちの現在の気持ちを語り、そして故人を決して忘れないという未来のへの約束を歌った。人麻呂は、常に死者よりも残された者の気持ちを考えて歌を歌い、それが、これまでの葬歌や挽歌と人麻呂の挽歌が一線を画す理由となった。

「あすか川明日だにみむと思へやも吾が大君の御名忘れせぬ」

この歌を聞いた人は皆、あすか川を見て明日香皇女を思い出したに違いない。

人麻呂挽歌とともに消えた古代文化

人の死を、水沫や川、雲や霧などに例えた人麻呂の中では、死者の魂の復活という観念は消え去り、人は死ねば二度と戻って来ないという新しい死生観が定着していた。それを証明するかのように、挽歌という文化も人麻呂が頂点を極めると同時に終焉を迎える。持統天皇は仏式の火葬となり、古代の殯宮行事は次第に姿を消して行った。万葉集が注目されている今、それを紐解き、はるか古代に思いを馳せてみるのも良いだろう。

ライター

岡倉

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