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心霊番組が激減したのは非科学だから?非科学を追い出しすぎることの弊害

かつてテレビを賑やかせた、いわゆる「心霊現象」を扱う番組が激減している。昔は夏休みともなれば怪談や霊体験の再現ドラマ、心霊写真の鑑定などに子供たちは怖いと悲鳴をあげながらもどこか楽しみにしていたものだった。それが近年、カルト宗教の事件の影響か、科学教育の妨げになるからか、子供たちの、というより我々の生活世界から「幽霊」が追い出されているように思う。我々にとって大切な隣人であった幽霊について考えてみる。

心霊番組が激減したのは非科学だから?非科学を追い出しすぎることの弊害

幽霊とは何か

幽霊とは何か。Wikipediaによると、「死んだ者が成仏できず姿を現したもの」「死者の霊が現れたもの」とある。出典はそれぞれ、広辞苑と、日本大百科全書(小学舘)とあるから公式の定義として間違いない。人間の肉体には魂(のようなもの)が宿っており、肉体が滅んでも魂は不滅で死後も存続しあの世に行くが、生に執着してこの世にさ迷っている状態で、時折姿を現すことがある。「生霊」などというものもあるが、概してこの世にうらみ、未練を残した死者の魂といったところだろう。

非科学的だからという理由で幽霊が消えつつあるが

うらみつらみの固まりのようなものだから、大概の幽霊は怖いものである。筆者もいくつかの恐怖体験があるが、そのひとつが少年期に観たオカルト映画のCMである。CMの最後に女の子の幽霊が「お父さん うらめしい」と迫ってくるもので、これが凄まじく怖かった。未だに背筋が凍るほどだ。洋画であるにも関わらず「うらめしい」などという吹き替えを当てた製作者のセンスこそうらめしいが、今の子供たちに「うらめしい」「うらめしや」はあまり通用しそうもない。なぜなら現代では幽霊は消えつつあるからだ。幽霊は非科学的存在であり、霊やお化けなどというものはあり得ないというのが、科学的世界観に基づく現代社会における常識である。しかしこの「科学教育」がどこまで本当の意味で教養として身に付いているかは疑問である。

非科学な存在である幽霊が教えてくれることもある

幽霊がなぜ怖いかと言えば死んだ人間が現れるというあり得ない現象に対するパニックである。しかしそれが揺らぎつつあるデータがある。当時(2005年)物議を呼んだ話題だが、長崎県教育委員会が小中学生に生と死の意識調査を実施したところ「死んだ人は生き返る」と思う子供が15.4%を占めるという結果が出た。その理由は「テレビや映画で生き返るところを見たから」29.2%「ゲームでリセットできるから」7.2%などとなっていた。

このデータは、不自然な延命治療や人の命を軽く扱う少年犯罪や子供の虐待など、生と死の境が曖昧になった現代を象徴しているようにも思える。かつて、日本の幽霊は白装束に三角の布をつけた、つまり通夜・葬儀における棺桶に入った状態で現れることが多かった。これは死者としてのシンボルだと思われる。幽霊は生と死をはっきり区別していた。死者が姿を現す、だから怖いのである。幽霊が教えてくれるのは生と死なのだった。

幽霊は「生と死」を教えたり、考えさせたりするのに役立っていた

明治の物理学者・寺田寅彦(1878~1935)は幽霊ではないが、やはり駆逐されつつある「化け物」についての随筆でこう語っている。

「全くこのごろは化け物どもがあまりにいなくなり過ぎた感がある~略~これはいったいどちらが子供らにとって幸福であるか、どちらが子供らの教育上有利であるか」

「日常茶飯の世界のかなたに、常識では測り知り難い世界がありはしないかと思う事だけでも、その心は知らず知らず自然の表面の諸相の奥に隠れたある物への省察へ導かれるのである~略~このような化け物教育は、少年時代の我々の科学知識に対する興味を阻害しなかったのみならず、かえってむしろますますそれを鼓舞したようにも思われる」(寺田寅彦 化け物の進化)

日本における物理学の先駆者であると同時に、夏目漱石に師事した文学者でもある寺田ならではの視点である。さらに寺田は「化け物」や不可思議な事を馬鹿らしいものと切って捨てる「皮相的科学教育」を批判している。

化け物や幽霊は科学では教えられない「生」や「死」そのものを身近に感じさせる役割を担っていた。そうした意味を見いだせず、化け物や幽霊をあり得ないものとして抹殺する「科学教育」を受けている子供たちが、「科学技術」の結晶たるゲームから学んだことは「命のリセット」であった。

幽霊は怖い存在だけではない

我々は幽霊がいなくては生きていけないのではないかと思う。大切な人を失ったとき、我々は幽霊でもいいから会いたいと思うようになる。例えば死者が集まるという恐山を訪れる人は何を求めていくのか。死んだあの人に会いたいとは、具体的には幽霊に会うということだ。子供の頃、あれほど怖かった幽霊に会うために行くのである。

仏教は本来理性的な哲学で、死後の霊の存在を認めない。キリスト教では「霊」は存在するが、うらめしやの「幽霊」は否定されている。人間の霊は死後、最後の審判に備えて眠りについているとされるからだ。近年の「スピリチュアル」的な教えは、「霊性」「宇宙意識」など、わかったようなわからないよう曖昧な概念を説く。

しかし我々が会いたいのは、そのような高尚な宗教的な教え、存在ではなく、語りかけてくれる具体的な「人」としての、つまりは幽霊に他ならない。会えなくても、あの世でもどこでも、どこかにいると思える。そしていつか自分も会える。そう思うことで救われる。その場合のイメージとは生前そのままのお互いの姿だろう。つまりは幽霊なのである。「あの人」への追慕の形として、幽霊はいつも身近に存在するのだ。

幽霊の行方

核家族化などにより、子供たちは葬儀や法事に出る機会がなくなり、幽霊もまた迷信として興味本位の都市伝説くらいにしか居場所がなくなりつつある。彼らが成長し、大切な人を見送り、命はリセットできないこと心底感じいった時、幽霊は身近にいてくれるだろうか。

参考資料

■長崎県教育庁学校教育課「心を育てる道徳教材集」(2006)
■寺田寅彦「化け物の進化」寺田寅彦随筆集 第2巻(1964)岩波書店

ライター

渡邉昇(掲載日:2019/10/10)

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